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キシリトールは犬にとって危険だそうですが、
野菜や果物に含まれるキシリトールも犬にとって危険ですか?

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[質問] 最近ネット上で、キシリトールが犬には危険だという話を読みました。肝臓病になって死ぬということなのですが、どうやらイチゴやレタスなどの普通に食べさせている野菜や果物にもキシリトールが含まれているらしく、注意するように書いてありました。

 手作り食を食べさせている私としては、ショックで、不安です。このキシリトールを含んだ野菜や果物を食べると病気になるのでしょうか?また、そうなら、飼い主としてどう対処したらいいのか教えて頂けますでしょうか?

東京都 世田谷区 匿名希望さん



 世の中には、「●●が身体によい、悪い」という「噂」が多いものです。でも、調べると、意外と大したことがない話がほとんどです。今回の「噂」は、どうでしょうか…???

※「結論だけ教えてくれ!」という主張もあろうかと思いますが、そういう「安易な姿勢」が今回のような誤解を招き、不安を拡大する結果につながっている現状があるので、獣医師という立場上、キチンとした考え方でお伝えしたいと思います。ちなみに、ペットに関する諸情報にはこの手の問題が散見されますので、もしあなたが、読者に注意を促すような情報を作成し、伝達する際には、「充分気をつけた方が良いかもしれない」という自覚を常にもっていてください。もちろん、自戒も込めて申し上げております。また、本レポートにおいて、表現上の問題や、解釈の誤りがございましたら、それは全て須崎恭彦本人の無知、配慮の至らなさ故ですので、優しくご指摘の上、ご指導ご鞭撻頂けますよう、よろしくお願いいたします。



 こういうときは、常識的に考えるところからスタートします。

 今までイチゴやレタスを食べさせていて、なんともなかったのでしたら、まず、「その子にとってその量は安心できる量」と言えるはずです。

 もっとも、「今後どうなるかわからないじゃないか!」という反論もできるでしょうが、そんなことを言いはじめたら何も食べられないですよね。ですから、どの程度のリスクがあるかということは、その子その子で精密に実験をする必要があります。

 しかし、そんなことは現実的ではないので、元となる情報を入手し、どのくらいまでが許容範囲となるのかを推測してみましょう。そして、危険と感じる量を確認し、与えない方がよいのか制限が必要なのか決めるということで、まずの着地点を見いだしてみるのがよろしいかと思います。



元ネタはどこか?
さて、話のスタートは、

甘味料キシリトール、犬には危険=米報告
14:04 JST139

[ニューヨーク 29日 ロイター] シュガーレスの菓子類に広く使用されている人工甘味料キシリトールが、犬の肝臓に障害を起こす可能性があり、場合によっては死に至らせる危険もあると、米国の獣医師らが29日、米獣医学協会(AVMA)のジャーナルで警告した。

 この報告を受け、砂糖の代わりとして使用されるキシリトールと肝機能不全など犬の病気との関連を疑う声が強まりそうだ。

 報告書を共同執筆したグワルトニー・ブラント氏によれば、犬はキシリトールを少量でも摂取すると大量のインシュリンを放出し、その結果血糖値が下がり、命に危険が生じるという。

 同氏は「体重10キロの犬が1グラムのキシリトールを消費した場合でも治療が必要になる」としている。ただ、キシリトールと肝臓への影響を結論付けるにはさらなる研究が必要だとも話した。

http://today.reuters.co.jp/news/articlenews.aspx?type=entertainmentNews&storyid=2006-09-30T135005Z_01_NOOTR_RTRJONC_0_JAPAN-230403-1.xml

という記事が発端の様です。

 最後の一文が重要なのですが、「まだよくわからない」状態で、この話が伝わっているということをあらかじめご理解下さい。




話がどう伝わったか?
 このニュースを各メディアが取り上げ、多くの方の目にとまるようになりました。

 そして、それをご覧になった方で「これは大変!みんなに知らせなきゃ!」と感じた親切な方がブログなどに記事を作成・投稿し、

その文章を読んだ方が次々と情報発信し、

「キシリトールは犬には危険だ!」

という話になった様です。



 そうなると次の展開として、

「では、普通の食材でキシリトールを含む食材はあるのか?」

という疑問を持たれた方がいらっしゃって、

「調べてみたらあった!イチゴもそうだって!ところで、これは大丈夫なのだろうか…???」

ということになったようです。


 まぁ、イチゴの食べ過ぎで犬が命を落としたという話は聞いたことがないので、

「大丈夫でしょう。」

と、須崎は思うのですが、あまりに心配な飼い主さんが多いようですので、調べてみました!




論文はどうなっているのか?
 今回の元ネタとなった以下の論文
Acute hepatic failure and coagulopathy associated with xylitol ingestion in eight dogs

Eric K. Dunayer, MS, VMD; Sharon M. Gwaltney-Brant, DVM, PhD, DABVT
(本文をお読みになりたい方は、上記リンクから$10で購入できます!)


には、犬の体重1kg当たり1.4〜2.0gのキシリトールを摂取して肝障害になり死亡した例が紹介されております。

 他にも、犬の体重1kg当たり4〜16gのキシリトールを摂取した犬のケース7例が紹介されております。そのうちの1例が死亡、3例が安楽死、3例が回復したそうです。

 また、筆者らは、犬の体重1kg当たり0.15g(=150mg)のキシリトール摂取で低血糖になった例を経験しているそうです。

 そして最後に筆者らは、「犬の体重1kg当たり0.10g(=100mg)のキシリトール摂取があった場合(つまり、体重10キロの犬が1グラムのキシリトールを消費した場合)何らかの処置をするべきなのでは?」という表現をしております。



 もちろん、精製したキシリトール150mgと、野菜や果物に含まれているキシリトール合計150mgとでは、同じ作用があるとは限りません。これはとても重要なことですので、しっかりおさえておいてください。

 というのは、野菜や果物には、キシリトールの効果を高める成分や逆に抑制する成分が含まれているかもしれず(私たちが知っている成分もあれば、未知の成分もあるでしょう)、必ずしも同等とは言い切れないのです。

 ただ、そんなことをいいはじめたら、比較もできないので、単純に、

「どれだけの野菜や果物を食べたら、今回の論文で危険だ!と言っている量になるのか?」
を計算してみました。
(繰り返しますが、この量を食べたからといって、キシリトールの肝機能に対する悪影響を「必ず」受けるということを意味するのではありません。単純に計算したらこうなったということです。)



野菜や果物に含まれるキシリトールの量を調べよう!
 まず、野菜や果物にどれくらいの量のキシリトールが含まれているかをネット上で調べてみますと、「日本フィンランド虫歯予防研究会」のサイトに、資料がありましたので、このデータを元に検討してみます。


上記サイトによれば、

野菜・果物 キシリトール含有量(mg/100g 乾燥重量
イエロープラム
イチゴ
カリフラワー
ラズベリー
チコリー
ナス
レタス
ホウレンソウ
  935
  362
  300
  268
  258
  180
  131
  107


だそうです。

こうなると、

「150mgのキシリトール量で低血糖になった」

例があるわけですから、ビックリしてしまいますよね。



ところが、その判断はまだちょっと早い!んです。



上の表の「キシリトール含有量」の単位にご注目ください。

100g 乾燥重量

と書いてありますよね。


ここが誤解を招きやすいポイントです!




乾燥重量100gとは?
 野菜や果物はだいたい80〜90%が水分なのですが、「その水分を飛ばして残ったものの100g中に含まれている量!」ということです。


 ということは、水分を含んだイチゴの状態で、つまり通常販売されている状態で何ミリグラムふくまれているかを計算し直さなければなりません。

 例えば、スーパーで買ってきたイチゴは含水率が約90%ですから、換算すれば、100g中36.2mgのキシリトールが含まれていることになります。

 それぞれの野菜、果物で含水率は変わるのですが、それを考慮して計算し直すと(※イエロープラムに関しては、含水率データがなかったので、80%で計算しております)


野菜・果物 キシリトール含有量(mg/100g 湿重量
イエロープラム
イチゴ
カリフラワー
ラズベリー
チコリー
ナス
レタス
ホウレンソウ
  187
   36
   28
   32
   14
   12
    7
    8

だそうです。


では、いよいよ、これらをどの程度の量摂取したら、この論文で問題視している量になるのかを計算してみると…



どれだけ食べたら危険なの?
 以下の量は、体重1kg当たりの量ですから、チワワが下記量を食べたら…と想像しながらお読み下さい。

犬の体重1kg当たりのキシリトール量(g)
0.15
1.40
2.00
16.00
野菜・果物
上記キシリトール量を含む野菜・果物の量(g)
イエロープラム
イチゴ
カリフラワー
ラズベリー
チコリー
ナス
レタス
ホウレンソウ

80
414
543
474
1,097
1,225
2,245
1,845
749
3,867
5,072
4,427
10,238
11,438
20,955
17,216
1,070
5,525
7,246
6,324
14,626
16,340
29,936
24,594
8,556
44,199
57,971
50,594
117,010
130,719
239,485
196,754

この計算結果を見て、どう判断されるかは、あなた次第です。



 先日、某テレビ番組で、大食いで有名なギャル曽根ちゃんが、9kgドンブリ完食に挑戦していらっしゃいましたが、7kg食べたところで、「口飽きしてきた」ということでギブアップなさっていました。

 ところが、そのギブアップ直後に「さっきから気になっていた」ということでラーメンを食べていましたから、確かにもう少し食べられるのかもしれませんが、彼女は43kgだそうです。

 43kgの女性が7kgの食事でギブアップ…

 ここで、1kgのチワワがどれくらいの量を食べるか考えてみましょう!


43kgの女性
   →7kg(体重の約1/6)食べてギブアップ

1kgのチワワ
   →イチゴを414g(体重の約半分)食べるでしょうか?

1kgのチワワ
   →レタスを2,245g(体重の2倍以上)食べる???


こんな量を食べたら、違う理由で死んでしまいそうです



 今回の論文は、
キシリトールはヒトではあまり問題にならないけど、イヌでは摂取量に注意すべきである」という視点を与えてくださったという点において、非常に有益な報告だと思います。

 もし知らないで、良かれと思ってドンドン与えていたら、大変な結果になっていたかもしれないからです。

 しかし、それは世の中のどんな成分でも、大量に与えた場合は問題になることは普通にありうる話です。



 また、
精製されたキシリトールが、人間にとっては通常の摂取量でも、犬に対しては体調不良につながる可能性がある
という話と
キシリトールは『必ず』犬に対して体調不良を引き起こす
こととは、イコールではありません。


 さらに、
精製されたキシリトールが、人間にとっては通常の摂取量でも、犬に対しては体調不良につながる可能性がある
という話と
自然界で野菜や果物に通常含まれている量のキシリトールが犬に対しても体調不良につながる
ことも、イコールではありませんし、単純比較出来るものでもありません。

 というと「可能性があることには変わりないではないですか!」という反論も想定できます。須崎は、その反論はそれでごもっともな意見だと思います。

 もちろん、「生物」である以上、「絶対大丈夫!」とは言えないかもしれません。しかし、今回の報告を元に行った机上の計算では、「全ての犬の飼い主さんが神経質にならなければならないような量」とはとても思えないのですが、それは私の認識が甘いからなのでしょうか…?


 もちろん、飼い主さんが食べているキシリトール入りのガムの保管には注意した方が良さそうです。元ネタの論文中の症例には「キシリトール入りのガムを100個食べてしまった」犬の例が載せられています。


 今回の論文がどうこうということではなく(くどいようですが今回の論文は非常に示唆に富む内容です!)、ちまたには、犬や猫の食事でアレがダメ、コレがダメと制限する情報がよくあります。ところが、それぞれをよく調べてみると、大抵こんな感じのこと、つまり、適切な引用・解釈から外れてしまったことが多いものです。


 特に顕著なのが、「動物に塩分を『一切』与えてはいけない」という話と、「人間の食べ物を犬・猫に『一切』食べさせてはいけない」という話、「犬・猫には、ペットフード『しか』食べさせてはいけない」という話、「犬・猫には、加熱した食物を『一切』食べさせてはいけない」という話は、かなり一般の飼い主さんに誤解と不安と悪影響を与えています。

 これも、須崎は「ペットフードを食べさせてはいけない!」と言っているわけではありません。書籍でも触れておりますが、ペットフードは安価で便利なツールです。でも、「その時点で」合わない子がいるのも現実です。ですから、選択肢をできるだけ複数もてるような情報を流して頂きたいと思っています。


それと、これは、私も含めてなのですが、表現の仕方も気をつける必要があると思っています。
こんな情報がありました。注意が必要なことがあるのかもしれません。
という表現と、
●●をちょっとでも摂取したら、100%、例外なく危険!
●●を犬・猫に食べさせてはいけません!その行為は必ず病気や死につながります。そんなものを食べさせるのは動物虐待です!
という表現の違いは、相手に与える影響がまるで異なりますよね。


 私も気をつけて表現しているつもりですが、もし私の配慮が行き届かないところでみなさんを不安にさせていたり、心配させているところがございましたら、優しくご指摘頂ければと思います。

 また、今回のレポートで、私の認識が間違っている点などがございましたら、ぜひご指導頂ければと思います。

 全ての飼い主さんが、安心して犬や猫と暮らせるように、情報は吟味して理解、伝達したいものですね。

 

須崎動物病院 院長

須崎恭彦



追伸: 今回の、このような分析をどのようにするかの「全ステップ」と、この件のさらなる考察と、最近あった「赤ワインの成分が体重増加を防ぐ!?」という話について自分で調べる方法、「塩分を犬・猫に与えてはいけない!はウソだった…」の解説は、通信講座ペットアカデミーの11月号(2006.11.20.頃発行予定)で受講生全員に伝授いたしますので、どうぞご期待下さい。せっかくですから、この機会に「なぜアガ●●スは叩かれたのか?」などについても、ほとんどの方がご存じない「社会的背景」も踏まえて触れたいと思います。これらのことがわかると、いろいろな話に動じなくなるはずです。
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